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命とは本当に儚いものだ。あっけなく存在を散らしてしまう。
事故だった。工事現場の脇を歩いていて、偶然資材が倒れてきてその下敷きになったそうだ。即死だったらしい。きっと本人も何が起こったのか分からなかったことだろう。もしかすると、今もまだ何故自分が死んだのか理解できていないかもしれない。
彼女は僕にとって掛け替えのない人だった。この世からいなくなって一年以上経つのにぽっかりと空いた隙間は埋まってくれない。僕はまだ彼女を愛していて、想い続けている。過去に出来ない自分はなんて女々しく愚かなのだろう。
こんな僕を見たら君は「バカだ」と笑うかな。


「菊之介君のことが好きです、付き合ってください」

西日が差し込む教室。顔を紅く染め、真剣な眼差しで可愛らしく包装された箱を差し出す女子生徒。そして向かい合う自分。漫画やドラマにありがちな告白の場面。
対面する女子生徒はクラスメイトで、髪は染めていないが毛先をわずかに巻き、うっすらと化粧をした今どきよくいがちの女子だ。外見は可愛い部類に入り、明るく気さくな性格だからだろう男子からもそれなりに人気があるようだ。名前は確か、「八坂真奈美」だったか。
フィクションならば甘い言葉で答えハッピーエンドなのだろうが、生憎僕は物語のヒーローではない。

「ごめん、無理」

きっぱりと拒絶の言葉を告げると、八坂の表情はみるみるうちに歪んでいき下唇を噛んで涙が零れ落ちないよう堪えている。そんな姿を見ても罪悪感や申し訳なさはこれっぽっちも顔を覗かせなかった。下手に優しい言葉をかけるより非情なくらいに冷酷な言葉を突き付ける方が相手のためになることもある。今回がそうなのかと聞かれれば少し違うが。
プレゼントだけでもと言われる前に「それも受け取れない」と釘をさす。2月14日の贈り物が示す意味を知っていて八坂の想いの詰まったものなど受け取れるはずがなかった。
それでも八坂は手を引っ込めず震える唇を開いた。

「菊之介君の、許婚の人って亡くなってるんでしょ。亡くなった人のことずっと想い続けるなんて不毛だよ。私は菊之介君に死んだ人じゃなくて生きている人を見ていてほしい。それにその人だって……」
「僕が幸せになることを望んでいる、自分が彼女の替わりになるって? 傲慢な考えだよね、彼女のこと何も知らないくせに。君が彼女の替わりになんてなれるわけないよ」

八坂の言葉を遮ってまくしたてると赤かった顔から血の気が引き、目に怯えの色が交じった。一体、僕はどんな顔をしているのだろう。今鏡を向けられたら自分の表情に笑ってしまうかもしれない。
どこから漏れたのか、彼女の死は瞬く間に広まって周知の事実となっていた。それを好機ととってかこうしてアプローチを仕掛けてくる女子が増えたのは実に不愉快極まりない。
一度、気紛れで今回のように彼女の替わりになりたいと言ってきた子と付き合ったことがある。当然すぐに別れた。彼女の空けた穴を埋められる人などいるわけがないのに、何を期待したんだろうと後悔した。同時に相手に悪いことをしたとも思った。その相手とはそれ以来会っていない。
沈黙で話は終わったと判断して別れの挨拶もそこそこに教室を出た。
廊下は少し肌寒く、夕闇が空を侵食し始めていた。


僕は馬鹿だ。
君がどんなに僕の幸せを願っていてもその望みに応えられない。何故なら、僕の幸せは君と一緒にあることだったから。
いつか君じゃない誰かと家庭を築いたとしても、君のことを忘れることは出来ないだろう。最低な男だ。
どんなに最低でも僕は君の分まで生きるよ。
そして、僕がそっちに行ったときは「バカだ」「愚かだ」と責めてほしい。その言葉とともに、僕は君を抱き締めるから。

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丞崎芽琉

 漫画やらアニメやらゲームが
 好きな所謂オタク
 だらだらゆるーく生きている

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